皆さんは今までの登山で事故に遭ったことや遭難しかけたことはありますか?
私は7年間ほど山を登っていて、一般的な夏山以外にも雪山登山やバックカントリー、岩稜帯の登山など危険の伴う登山をしてきました。
そんなことをしながらも、お陰様で大きな怪我や事故、そうなりそうな出来事も無く登山を続けてきました。
しかし唯一、ある夏の日の北アルプスの登山でそれは起こりました。
書きながら振り返るとあまりにも危険な行動をしていたんだなと思います。
まだ生きていることに感謝しつつ、数年越しながら猛烈に反省しています。
登山をする皆さんが自分と同じような行動をしないように、その内容を記しておきます。
遭難しかけたのは北アルプスでも北側、船窪岳から針ノ木岳に続く道での出来事です。
2022年8月14日 北アルプス船窪岳〜針ノ木岳での遭難未遂
今回のお話は2022年の8月14日(日)、山が賑わう山の日の3日後の休日です。
長野県は北アルプス「穂高〜白馬岳4泊5日テント泊縦走」をしようとしていた時の3日目の出来事でした。
1日目の出発から雨に降られ、危険とされている北穂高岳〜槍ヶ岳を繋ぐ大キレットでは、風速15mくらいの風と横殴りの雨に煽られるような天気でした。
手を離せばいつでも逝ける状態でしたが、この場面はそんなに「危ない」と感じず、面白いこといっぱいでしたが、遭難に繋がりそうな話じゃないし長くなるので割愛。
話は3日目から。
2日目の夜は烏帽子小屋でテント泊をしていて、3日目の予定は針ノ木岳を超えて、爺ヶ岳の近くにある種池山荘まで行くことです。
朝、目を覚ますと2日間雨に降られて体力を削られている状態だったのと、起きたのが6時だったので種池山荘に行くには出発が遅く、行くか迷っていました。
何なら雨で濡れた装備が重いことと前日の疲れが溜まっていたので、高瀬ダムに降りるかまで迷っていました。
ちなみに装備は20キロほどに前日の雨で濡れたのを考えて22〜23キロはあったかと思います。
しかし、前日まで予定通り歩けていたことを考え、先に進むことを決心。
種池山荘まで行けなくても途中の針ノ木小屋でテント泊出来るからいいやと思い出発しました。
この時点で判断ミスでした。
自分が行こうとしていたルートはだいぶ険しいことを知らなかったのです。(下調べちゃんとしなかった…)
とりあえず疲れを残したまま出発して、まずは烏帽子岳に到着。
北アルプスは穂高連峰や三俣蓮華岳あたりの南側はよく行くのですが、ここからは未踏の地。
初めて見る綺麗なとんがり帽子の烏帽子岳の山容に見惚れ、歩く元気を貰いました。
その先の北アルプスでもかなりマイナーな、南沢岳や不動岳なんかは人っこ1人おらず静寂に包まれ、秘境感満載で一気にお気に入りの場所になりました。
振り返ると今まで歩いて来た烏帽子岳と野口五郎岳や水晶岳がばっちり見えて、感慨にふけりながら疲れも吹っ飛んでいました。
問題はここから。
不動岳を過ぎたあたりだったっけな(記憶が曖昧)。
登山道がだいぶ荒くなってきて、滑落しそうなところが多くなってきました。
写真の場所なんかは歩ける幅が50〜60cmほどで傾斜もあり、いつでも足を滑らせそうな道。
上の写真は振り返って撮っているので逆になりますが、右側は一歩足を外せばササササーっと落ちていけるようなザレ場になっていて、たった20mほどの距離ですが、1度だけ足を少し滑らせとても緊張しました。
そんな神経を使う場所が増えてきた為、今までの疲れがドッと出てきました。
やっとのことで着いた船窪岳山頂。この時、時間はなんと14:00…。
予定の種池山荘にはここから10時間かかる予定なので行けっこありません。
ここで小休止を取りながらコースタイムを睨みながら、針ノ木小屋に行くか船窪小屋に行くかを決めることに。
船窪小屋のテント場までは45分、針ノ木小屋テント場まではどう頑張っても4時間はかかります。
通常なら山小屋には15時までには着いていないといけないので、針ノ木小屋まで行くことは絶対に有り得ないです。
しかし、疲れている頭はここで判断をミスります。
船窪小屋に寄っちゃうと次の日の行程が長くなって辛いと思い、針ノ木小屋まで歩くことにしました。(今が辛いはずなのに)
そして、上の写真のルートを歩けば途中で無理だと思っても船窪小屋に泊まれるのに、もともと針ノ木小屋までは下の写真の最短ルートを歩こうと思っていたので、それを曲げずに進もうと決心。
それが大きな間違い、大バカ者でした。
4時間かかる上に、YAMAPの地図を見ても分かる通り、細い線になっているのであまり登山者が入ってないであろう道。
ここのルートは一応調べたのですが、あまりログが出てこなかったので、下調べも上手くいっておらず、不安要素が満載でした。
それでも行く判断をした自分の頭。
船窪岳を出発してすぐにこんな感じの薮が続き、ほとんど人が入っていないことを確信。
それでも先へ進みます。
船窪岳山頂から1時間ほど下ると、針ノ木谷に到着。黒部湖に繋がる綺麗な沢です。
薮から抜けて「沢だー!」と喜びつつも、今までほとんどした事がない沢登りをしなければいけない絶望感も感じていました。
高巻き出来そうな場所も見つからず、沢の縁や中を歩くことに。
そして、そこに追い討ちの雨。3日間連続で降られてかなりうんざりです。
レインウェアを着ていても、2日間着て撥水性がほぼ無くなっていたので沢登りと雨で靴の中と服がびしょ濡れ。
そんな中、歩を進めながら針ノ木峠に登る入り口を探し回っていました。
当然ほとんど人が入っていないだろうからペンキ後などは無く、ここで沢登りをほとんどしたことがない私は2回ほどルートファインディングミスをしました。
幸い、「ここは絶対に違う」という今までの経験と野生の勘(?)でルートに戻ります。
登り口を探し歩くこと30分、唯一のペンキ跡を発見して一安心。そこから、針ノ木峠への最後の登りに入っていきます。
ここからはカメラ・iPhoneの充電が無くなったのでここからの写真は無し。
枯れた沢を登ってまた、笹藪に入っていきます。
時刻はすでに16:30を過ぎており、真夏でもこの時間ではほぼ日が入らない谷間だったので、ヘッデンをつけないと足元が分からない状況でした。
この笹藪が過去最強に凶悪で、丈が腰上〜胸あたりまである上に、ほとんど踏み跡が無くてルートファインディングも厳しい道。
それに加えてどんどん気温が下がりながら降る雨と、疲れた身体には堪える傾斜。
ヘッデンで足元を照らして笹藪を掻き分けながら懸命に登りました。
最後の登りの半分来た辺りで疲れもピークに。
身体を少し休めようと水を飲もうと思ったら、中身はすっからかんになっていました。
歩を止めまいと夢中で登っていて気付かなかったが、この時ほぼ脱水状態。
なにか口に入れないと動けないと思い、ザックから行動食として唯一残っていたミックスナッツを口に入れる。
しかし、口が渇きすぎて噛めても水分のないナッツは飲み込めませんでした。
ここでの絶望感は大きく、「もうここでビバークをしようか」なんて悩みましたが、雨も降りそれを遮る木々もなく、周り一帯が傾斜面でビバーク出来そうな所が無かったので、諦めて登り続けました。
あまりにも喉が渇き、動けなくなりそうだったので、笹に溜まった水を舐めて補給することに。
この時、さっきの沢で汲んでおけば良かったと後悔していました。
笹からの水分補給で力をもらい、ゴールが見えない中を進み、歩いていると明らかに誰も歩いていないだろうという場所を歩いていた。
それに、数十m先にはクライミングでも登るのがキツそうな岩壁が見えた。
ここでもまた、「これはいっちゃ駄目なヤツだ」と判断できルートファインディングミスに気づく。
何であんなに疲れた状態でこの判断が出来たのか分からないが、「絶対に死ぬもんか」と自分でもわからないくらいパワーを振り絞って登っていたように思います。
登ってきた道を戻り、唯一目印になりそうな木があるところに行きルートに合流したことを確信してまたゴールへ向かいました。
そして、そこから30分か1時間ほどでしょうか。もうどのくらい登っていたかなんて分かりません。
やっと登山道らしき道が出てきて、ようやく小屋の明かりも見えてきました。
もうこの時は今までに味わったことが無い安心感に包まれていました。
最後の力を振り絞って針ノ木小屋に到着、時刻は20:00。
テントを張るエネルギーなんか1mmも残っていなかったので、ふらつきながら消灯前の小屋に入り、小屋番さんに泊まらせてもらえないかお願いをした。
呆れられながらも了承を得て泊まらせてもらえました。
針ノ木小屋の皆さんには本当に迷惑をかけたし、感謝の気持ちで一杯です。
水分補給をしないと眠れそうも無かったので、チェックインをした後にCCレモンを購入してがぶ飲み。
この時のCCレモンは世界一美味かった。
飲み終えてびしょ濡れになった洋服を着替え、速攻で布団に…翌朝まで泥のように眠っていました。
翌朝はすっかり元気になって判断力も回復。朝からまた天気も悪かったし、同じバカはもう2度としないと白馬岳まで行くことは諦め、針ノ木岳にも登らず潔く針ノ木雪渓を降りることにしました。
さいごに
だいぶ長くなりましたが、北アルプスで遭難しかけた日のお話でした。
滑落未遂が3回とルートファインディングミスが3回、脱水症状×エネルギー不足×疲れのトリプルパンチで行動不能になりそうな、かなり危ない状況でしたが、遭難になる事なく無事に自力で下山をすることが出来ました。
今回の話で何が言いたいかというと、自分の体力・レベルに合った行動計画で安全に登山をしましょうということ。
そして、疲れたら判断力が落ちるので絶対に無茶な行動は止めて安全な方を選びましょうということです。
また、私は1人で登ったため、無茶な行動と判断ミスをして遭難しかけました。
誰かと一緒に登り自分たちの行動が安全か確認し合うことで、こういった判断ミスは起きにくく遭難のリスクは下がります。
こういった行程が長い山行や難易度のある登山は、経験豊富な人や信頼できる人と一緒に登ることをおすすめします。
あと、もしも遭難した場合に自分が登っていることを誰かが知っていなければ、救助の連絡をしてもらえない為に助かる確率が大幅に減ってしまいます。
登山届を出すのと家族や知人に登ることを知らせるのは忘れずに。
生きてて良かった。
おしまい。
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