夏から秋にかけてスズメバチに刺される事故が急増します。刺されると激しい痛みだけでなく、最悪死に至る危険性も。
登山でまず会いたくない野生動物として「クマ」が多く挙がるかと思いますが、実は毎年の死亡者数はスズメバチの方が多く、クマに襲われるよりも危険性が高いのです。
そんな危険なスズメバチに刺されないためにはどうすれば良いのか、またどんな山にいるかを探りつつ、刺されてしまった時の応急処置の方法もあわせて解説していきます。
スズメバチの生態と特徴
スズメバチは日本国内に全部で17種類存在します。そして、それらはスズメバチ属・クロスズメバチ属・ホオナガスズメバチ属に分類されます。
この記事では攻撃性・毒性ともにトップクラス、皆さんもよく知っているであろうオオスズメバチを主に取り上げて説明していこうと思います。
見た目や性格もかなり違い刺さない種もいますが、見つけた時にどの種類か即座に判断するのは難しいですし、対処法や応急処置はほとんど変わらないので、ここでは割愛させていただきます。
オオスズメバチは、スズメバチ属で世界最大の種であり「昆虫界最大の捕食者」とも呼ばれています。
スズメバチの中でも一番体が大きく、働き蜂で30〜40mm、女王蜂では40〜50mmもある、攻撃性が高く毒性も強い危険なスズメバチです。
縄張り意識が強いため、巣だけではなくエサのある場所に近づいただけでも攻撃されることがあります。
- いつまでもまとわりつく
- 羽音が以上に大きくなる
- カチカチと顎を噛む音が聞こえる(オオスズメバチのみ)
他のスズメバチは威嚇行動を行なった上で刺してくることが多いですが、オオスズメバチの場合、威嚇行動なしで突然刺してくることもあるので非常に危険です。
ちなみに刺すのはクマや人間などの大型生物だけみたいです。
刺してくるのはメスだけ
スズメバチの毒針は産卵管だったものが進化したものなので、オスは毒針を持ちません。したがって、刺してくるのはメスだけになります。しかし、飛んでいる際に見分けるのは困難なので、予備知識として頭の片隅に入れておくだけでOKです。
スズメバチの活動時期
スズメバチが活動する時期は5〜11月、季節でいえば春〜秋の3シーズンになります。
春は女王蜂が1匹で巣作りを始める時期なので穏やかですが、6月ごろから働き蜂が少しずつ育ちはじめ、危険性が増してきます。
スズメバチの種類によって時期に多少の差はありますが、夏〜秋にかけては働き蜂の数がピークになることと、エサとなる虫の減少により飢えて気が立っており、非常に危険な時期となります。
オオスズメバチは8〜10月に危険性が高まり、攻撃性が高いため特に注意が必要です。
スズメバチは寒さに弱く、日中の気温が18℃以上になってから活動、10℃以下では動くことが困難になります。
そのため、北海道や東北地域などの寒い地域では活動時期、活動時間が短くなっています。
冬にスズメバチはいないの?
冬は女王蜂のみが越冬でき、その他は全て寿命で死んでしまいます。
だから刺される心配をする必要はない…ともいえず、冬眠している女王蜂を刺激して刺されるといった被害もあります。
女王蜂は土の中や倒木の中で冬眠しています。3シーズンほど気にする必要はありませんが、雪のない低山や里山では不用意に倒木を刺激しないようにしましょう。
活動場所と多い山域
スズメバチは北海道から九州まで全国的に見られます。本来の生息場所は森林・雑木林でしたが、近年は都市部から山まで広い範囲に生息しています。
山は低山や里山など、比較的標高の低い場所に多く生息しています。しかし、スズメバチ属は1200m程度まで、キイロスズメバチやクロスズメバチ属、ホオナガスズメバチ属は1500m以上でも生息しているとされています。標高が高いからといって油断はできませんね。
富士山での研究データがありますので気になる方はこちらを確認してみてください。
関東近郊の低山としては高尾山、神奈川県の丹沢、筑波山、奥秩父の山々など、登山者が多く整備が行き届いた山でも目撃・被害情報が発生しています。
活動が活発な夏〜秋や、スズメバチによる被害があった場所では看板が設置されていることがありますので、近づいたり、不用意に騒ぎ立てないようにしましょう。
ビジターセンターがある山ではサイトで情報が出ていることがありますので、気になる方は調べてから登りに行くと良いでしょう。
よく晴れた10月中旬、ミシュランにも載る東京の名所、高尾山に登りにいった。その日は気温25℃と秋にしてはかなり暑い日だった。
高尾山から陣場山方面へ向かう途中の「一丁平園地展望台」が富士山の眺めもよく気に入っており、そこで昼休憩をとった。
休んでいると遠くの方から「ブーン」とかなり大きい音が聞こえてきた。はじめは「飛行機かヘリかな?」と思ってのんびりしていたが、音は徐々に近づいてきてハチだったことに気づく。
いつでも逃げれるようゆっくり立ち上がると、そのハチは一直線に私のところに向かってきてわずか10センチのところを飛び回りはじめた。かなり大きくその形からオオスズメバチだと判断したが、警戒音も出さず観察しているような感じだったので、私もその場から動かず観察していた。
5分くらいだっただろうか。時折、メガネに衝突してきたり靴に止まったりしながら観察(品定め?)され、やっと離れていった。一緒に登山をしていた友人は、ずっとまとわりついているのを見て「そろそろ逃げたら?」とアドバイスしてきたが、今回は逃げなくて正解だったようだ。
飛び回られている時はハチに緊張感を悟られないため無心になっていたが、一度ハチに刺されたことある身のためアナフィラキシーショックが怖く、刺さずに離れていった時にはホッとした。
スズメバチの巣はどこに?
都市部では家の軒下や屋根裏など比較的発見しやすい場所に巣を作るスズメバチ。山中では土の中や枯れ葉の下、木のうろ(洞窟状の空間)、倒木に巣を作ることが多く発見しにくいので注意が必要です。
特に土の中や枯れ葉の下に巣があると気づかずに踏んで、刺激してしまう恐れがあります。
しっかり整備されている山でも、コース脇の枯れ葉が堆積しているような場所に巣がある可能性があります。無闇に踏んだりしないようにしましょう。
スズメバチに刺された時の症状
オオスズメバチは攻撃性が高い上に毒性が強い昆虫としても有名です。日本での野生動物による年間の死者数は、クマや毒ヘビを抜いてトップになります。
- 強い発赤や腫れ
- 激しい痛み
- 蕁麻疹、腹痛や嘔吐・下痢などの全身症状(2回目以降)
ハチに刺されると数分以内に激しい痛みが出現し、赤く腫れます。初めて刺された場合、通常は数時間〜1日以内に症状は治まります。
2回目以降はハチの毒に対するアレルギー反応が起こすため、刺された直後から蕁麻疹(じんましん)を生じたり、刺されて1~2日ほど強い発赤や腫れを生じたりします。この反応には個人差があります。
アナフィラキシーショックに要注意!
ハチに1度刺されると体内に蜂毒に対する抗体ができ、2回目以降、刺されると全身症状(アレルギー反応)を引き起こすとされています。
- 軽症…蕁麻疹、かゆみ、だるさ、息苦しさ
- 中等症…喉が詰まったような胸苦しさ、腹痛、嘔吐、下痢、頭痛、めまい
- 重症…意識喪失、痙攣、血圧の低下、死亡
※多量の蜂毒が同時に体内に入った場合は初めてでもアレルギー症状を引き起こすことがあります。1度で複数匹に刺された時などは注意が必要です。
アレルギー反応として、蕁麻疹や口やまぶたの腫れなどの皮膚症状に加えて息苦しさ、腹痛や嘔吐・下痢などの症状が現れます。
アレルギー反応が数分〜30分以内に起き、呼吸困難や血圧低下などの生死に関わる重度の症状を伴うものをアナフィラキシーショックと言います。この重度の症状は顔を含む頭部や首を刺された場合に多く発症し、早ければ15分以内で死亡する場合があります。
このアナフィラキシーは「アドレナリン」を打つことで症状を緩和することが出来ます。しかし、山はすぐに救急隊が駆けつけられるような場所ではありません。
これまでにアナフィラキシーを起こしたことがある人は、「エピペン」というアドレナリン自己注射薬が処方される場合があります。ハチがいる可能性の高い山に行く時は対策をしっかり行ないつつ、正しい使い方を身につた状態でエピペンも持って行くと良いでしょう。
スズメバチに出会ったら…刺されないための対策
それでは、攻撃性の高いスズメバチに刺されないためにはどうすればいいのでしょうか。ここではスズメバチに刺されないための対策を紹介していきます。
①巣に近づかない
スズメバチの巣の存在に気づかず、不用意に近づき過ぎてしまうと刺される危険性が非常に高まります。ハチの巣にむやみに近づくのは避けましょう。
巣から10m以内で要注意、3m以内の場合はかなり危険とされています。巣を発見したら低姿勢になり、ハチの視界から外れましょう。スズメバチは激しい動きに反応しやすいため、慌てずゆっくり逃げてください。
もし、エスケープルート(迂回路)がある場合は、無理に巣がある道を通ろうとせず、後退してエスケープルートを利用しましょう。
②激しい動きをしない
走り出したり手で追い払うような激しい動作はハチは興奮状態にさせます。また叩き潰したりすると、たとえ周囲に1匹だけだったとしても警戒フェロモンを出して仲間を引き寄せてしまいます。
ハチを見かけたり近づいてきたら走らず、大きな声を出さずに逃げましょう。
また、集団で動いていると興奮しやすく、攻撃的になると言われています。グループ登山をしている場合は注意が必要です。
近くを飛んだり、身体に止まった場合は「木化け」を使う
身体のすぐ近くを飛んだり止まった場合は、木のようにじっと動きを止める「木化け」をすることが効果的です。これをすることで害意がないと判断され、攻撃をせずにハチは離れていきます。
ただし、攻撃性が高いオオスズメバチや危険度が高まる時期には効果が期待できないこともあります。
1匹ならまだしも、複数匹が寄ってきてしまった場合は全力で逃げましょう。
③黒い服、濃い色の服を避ける
黒色のアイテムはスズメバチを刺激してしまい、刺される可能性が高まります。これはスズメバチの天敵であるクマに色が似ているからとされます。濃い色にも反応しやすいので、なるべく白やグレーなどの薄めの色のアイテムを着用すると良いでしょう。
また後ほどにも紹介しますが、刺される箇所として頭部も割合として高く、髪色に反応しているとされています。頭部を刺されると重症化するリスクも高まりますので、帽子は必ず身につけるようにしましょう。
ウェアに関しては、長袖を着ることで素肌を直接刺されることを防ぎます。スズメバチの毒針は衣服を貫通するため完全には防げませんが、被害を最小限に抑えることが出来ます。
④匂いの強いものは避ける
匂いにも敏感なハチは、香水やヘアスプレー、制汗スプレーの匂いに反応して近づいてくる恐れがありますので注意が必要です。登山の際はなるべく付けないようにしましょう。
また、甘いお菓子やジュースも誘引する原因になります。ハチがいそうな場所での飲食はなるべく早く済ませ、食べこぼし、飲みこぼしには注意しましょう。
虫除けとしても使われるハッカ油は、ミントのスーッと爽やかな香りが特徴。その強い香りで虫を近づけません。
「匂いが強いから逆効果では?」と思う方もいるかもしれませんが、ハッカ油の匂いにはスズメバチには高い忌避効果があると実証されています。
登山で出会う他の虫に対しても効果がありますので、ぜひ試してみてください。ただし、アロマ虫よけスプレーなどでラベンダーなどの甘い香りを使ったものは逆効果になるので使用は控えましょう。
スズメバチに刺された時の応急処置の方法
上記の対策をしっかり取っていても、そしてこちらが何もしなくても気が立っている危険な時期には突然刺してくることがあります。
刺された時に応急処置をしないと痛みや腫れが悪化したり、手遅れになる場合がありますので、ぜひ覚えておきましょう。
刺される箇所は主に上半身に集中しており、多いのは手、腕、顔でそれぞれ全体の20%程度。頭部を刺される人がその次に多く、10%くらいの割合でいるようです。頭部に関しては自分での処置が難しいことに加え、重症化するリスクが高い部位でありますので、なるべく早く他者に応急処置をお願いしましょう。
⓪刺された場所から静かに離れる
応急処置をする前に、刺されたらまず静かにその場から離れましょう。近くには巣がある可能性も高いうえ、フェロモンで仲間のハチが寄ってきて再び刺される可能性があります。
距離は50m〜100m程度離れると一安心です。
走って逃げるとハチを刺激してしまったり、毒の周りを早めてしまうので注意しましょう。
①毒液を抜く
まず最初にやる応急処置として、毒液の吸引が挙げられます。
「傷口を流水で洗い流しながら毒液を抽出すること」がおすすめですが、登山中は水道が無かったり、単独行動だと洗い流すのと絞り出しを同時に行うのは困難です。また体内に毒が周ってしまうと、どの処置も効果はありません。
そのため、登山中は毒液を体内から抜くことを優先しましょう。
手で絞り出すこともできますが、ポイズンリムーバーといった毒の吸引を専用としたアイテムを使うことをおすすめします。
刺された部位にマウスピースを押し当てレバーを引くことで、毒液を吸引することが出来ます。しっかり毒液を吸引できた場合は、腫れや痛みをある程度抑えることが可能です。
使い方も簡単、軽量かつ安価で登山に持っていきやすいので、ハチの活動時期にはエマージェンシーキットに入れておくと良いでしょう。
刺されてから時間が経つと毒が体内に周ってしまい、ポイズンリムーバーを使用しても効果がないとされています。刺されてから2分以内には処置をするようにしましょう。
また、ドラマや漫画などで毒を口で吸い出すシーンを見たことがある人もいると思いますが、実際では毒を口で吸い出すのはNG行為とされています。
毒を口で吸い出すと、口内の細菌が傷口から入って感染症を起こす可能性があります。また、口内に傷や虫歯があるときは、その傷口から毒が入り込み毒の循環を早めてしまうので、絶対にしないでください。
②水で洗い流す
毒液を吸い出せたら、次に傷口の洗い流しです。
ハチの毒は水溶性のため、水で洗うと毒を薄める効果と傷口を冷やす効果が期待できます。
持参した水も無い(飲み水が無くなりそう)場合は、ウェットシートで毒液を拭き取ってください。
③抗ヒスタミン軟膏やステロイド軟膏を塗る
上記2つの処置がある程度終わったら、次に痛みや炎症を抑える効果がある抗ヒスタミン軟膏、ステロイド軟膏を塗りましょう。
刺されてすぐに塗ったり強く塗り込むと毒の周りを促進してしまいますので、少し時間を置いて腫れが出てきたら優しく塗ると良いでしょう。
以上でスズメバチに刺された時の応急処置はおしまいです。
処置が出来たからといって登山を続けるのは危険ですので、速やかに下山しましょう。その後、赤みや腫れが強くなるようであれば医療機関を受診してください。
全身症状が出たら迷わず救助要請しよう!
スズメバチに刺されてから数分以内にだるさや息苦しさ、腹痛や頭痛などの全身症状が見られた場合はアナフィラキシーショックを引き起こす可能性が高いです。特に意識が朦朧とする、呼吸困難など重度の症状では、早ければ15分ほどで死に至る危険性があります。少しでも異変を感じたら迷わず救急要請をしてください!
そういった異変を感じ救助を待つ間、先ほど紹介した応急処置に加えて、エピペン(アドレナリン自己注射薬)を持っていれば使用してください。また症状悪化に備え、気道を確保できるよう回復体位を取ると良いでしょう。
アナフィラキシー症状がある状態で1人で応急処置をすることは困難になります。同行者もしくは単独行動であれば周りの登山者に助けを求め、応急処置を手伝ってもらいましょう。
おわりに
以上、登山でスズメバチに刺されないための対策と応急処置の方法でした。
なるべく会いたくないスズメバチですが、自然界で遊んでいる以上仕方のないこと。しっかり対策を取って
対策を取っていても攻撃的なスズメバチは刺してくることもあります。そうなった時に慌てず対応が出来るよう、特に活動が活発になる夏〜秋の時期は登山に行く前に応急処置の方法を頭に入れておきましょう。
それでは、安全に登山を楽しんでください。おしまい!
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