毎年夏のレジャーシーズンになると被害の声が挙がる「アブ」と「ブヨ」。登山でも遭遇することがあり、刺されたことがある人もいるのではないでしょうか。
蚊やハチと比べてマイナーな虫ですが、どちらも激しい痛みやかゆみに苦しめられます。
刺されると日常生活に支障が出るのはもちろん、登山時は下山を強いられることも。
そうならないためにも、今回はアブとブユの生態や違いを知ってもらいつつ、その対処法について解説していきます!
アブとブユの生態
吸血の理由や吸血方法、生息地域が似ている害虫で、名前を繋げやすいことからも同じ虫として扱われがちなアブとブユですが、症状や姿は全く別物です。
主な違い | アブ | ブユ |
---|---|---|
体長 | 9〜30mm | 3〜5mm |
症状 | 激しい痛みとかゆみ、腫れ | 激しいかゆみ、出血点を中心に発疹 |
アブは比較的大型のハエの仲間。日本で生息しているのは100種ほどで、そのうち吸血するものが約10種とされています。
鋭い口器で皮膚を切り裂くように傷つけ、出血した血液を吸います。そのため刺された直後は激しい痛みと出血を伴い、その後に腫れとかゆみが現れます。長いとその症状は2〜3週間続きます。
スズメバチに似ているアカウシアブ、ヤマトアブやシロフアブによる被害が多く注意が必要。
温度や二酸化炭素に反応してよってくるため、活動が激しい登山では寄って来やすいほか、車のエンジンをかけている状態で寄って来やすいとされています。
虫の中でも飛行速度が速く、最高では145kmも出ると言われています。
ブユは、地域によって呼び方が違い関東ではブヨ、関西ではブトと呼ばれるハエの1種。
体長は3〜5mmと小さく、黒っぽく丸い体を持った種類が多い。主に全国で見られるアシマダラブユは、脚が黒と黄色のまだら模様で蚊や他のハエなどと見分けがつきやすいでう。
ノコギリ状の口で皮膚を噛み切り吸血します。刺された箇所に赤い出血点や流血が見られるのが特徴。刺されている時は自覚症状がないが、唾液腺から毒液を注入するため、半日〜翌日以降激しいかゆみと強い腫れが現れます。
症状の出方には個人差がありますが、刺された周囲全体が腫れあがるような強いアレルギー反応が出ることもあります。
ちなみにアブもブユも吸血してくるのはメスだけ。産卵に必要なタンパク質などの栄養素を摂取するために吸血するようです。
ハチと間違われやすいハナアブ
その姿からミツバチとよく間違えられ、人の周囲を飛び回ることが多く怖がられる「ハナアブ」。
ハチに似ていることや“アブ”と名前に付いていることから「刺すのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、針を持たず人を刺すことのないハエの仲間です。特に高山植物が多い場所でよく見かけます。
体長は14〜16mmとミツバチとほぼ同じなため、飛んでいる際は見分けがつけにくいですが、ミツバチもこちらから危害を加えなければ刺してこないので、どちらにしてもあまり気にしなくて大丈夫です。
アブとブユの活動時期と時間帯
アブとブユの被害は特に「梅雨入り〜9月」に多くなっています。
アブは、18℃〜30℃の気温帯で活動する虫で発生が増えるのは夏。
日中に活動し、被害を受けやすいのは朝方と夕方になります。雨が降ると活動しなくなるので、アブの被害を受けないために小雨の日を選んで登ってみてもいいかもしれませんね。
ブユが活動する時期は3月〜10月までと期間が長いので注意が必要。しかし、ブユも湿度を好むため、被害の多くはアブと同じ梅雨入り〜9月に発生しています。
暑さにはあまり強くないため、朝方と夕方の涼しい時間帯に活動が集中しますが、曇って湿度が高い日は日中でも活動が活発になります。
アブとは違い、雨が降っている時でも活動を続けるので注意しましょう。
アブとブユの生息場所と多い山域
どちらも共通しているのは、水辺や湿気の多いところに生息しているということ。
アブは、一般的に湿度の高い沢沿いや沼地、森林などがある山地に多く発生しやすい。幼虫が水中で育つため、水域が重要な生息地。梅雨の時期から湿気の多い森や林、川や湖などに多く見られます。
発生しやすい場所はある程度決まっており、アブの時期になるとビジターセンターなどから情報が出ますので、事前に情報収集しておくと良いでしょう。
ブユは、日本全国の水の綺麗な山地の渓流沿いに生息する。とくに木が生い茂る渓流沿いには多く発生します。
渓流というイメージはないが、谷川岳や雲取山、筑波山、高尾山といった山でも被害情報が出ている。こういう場所では日陰に潜んでいることが多いので注意が必要です。
刺されやすい人の特徴
- 汗の匂いや体臭の強い人
- 酒臭い人
- 香水やヘアスプレーをつけている人
- 汗をかいている人
- 体温が高い人
- 呼吸が荒い人
アブやブユは体温や二酸化炭素を感知して人間に近寄ってきます。また、匂いにも反応するようで、香水やヘアスプレーなどの強い匂いだけでなく、汗や体臭にも反応するようなので当てはまる人は注意しましょう。
アブとブユに刺されないための対策
アブやブユに刺されると症状もひどく、時には下山せざるを得ない状況にもなります。そうならないためにも、しっかり対策をして登山を楽しみましょう。
①虫除けスプレーをする
アブ・ブユ対策として虫除けスプレーを使用するのが効果的です。
市販の虫除けスプレーには「ディート」や「イカリジン」といった有効成分が入っており、成分によって忌避対象の虫が異なりますが、アブ・ブユに対してはどちらも有効です。
しかし、これらの虫除けスプレーは水濡れに弱く、水辺で濡れたり、登山時に汗をかくと効果が落ちやすくなってしまいます。
そのため、行動中でも塗り直しやすい携行性に優れたものがおすすめです。
ハッカ油のスプレーもその匂いがアブに対して効果的ですが、こちらも同じく濡れると匂いが落ちやすく、濡れなくても30分ほどと効果の持続時間が短いので、こまめに塗り直す必要があります。
②おにやんま君を装備する
アブやブユの天敵「オニヤンマ」。それをグッズ化した虫除けアイテム「おにやんま君」が話題を呼んでいます。
全ての虫には効かないですが、オニヤンマを天敵とするアブやブヨ(それとスズメバチ)には効果絶大です。
電池などを使用しないため、軽量で登山にも持って行きやすいアイテムです。ザックや帽子に付け、虫除けスプレーも一緒に使うとさらに効果を実感出来ると思いますので、ぜひ試してみてください。
③長袖・長ズボンを着用する
長袖、長ズボンを着用して肌の露出を少なくすることで、被害を最小限に抑えることが出来ます。
アブ・ブユともに活動時間は朝・夕方に多いため、その時間帯に水辺の近くを歩く際は、出来るだけ肌の露出を控えましょう。
しかし、アブは薄手の服だと服の上からでも刺してくるので注意が必要です。
④装備品の色に注意する
どちらの虫も、黒や赤に好んで寄ってくる傾向があると言われています。アブやブヨが多い時期には服やザックのなどの装備品の色に気をつけ、白色や黄色、オレンジなどの明るい色のものを身につけていくと良いでしょう。
また、頭髪が黒い人も集まりやすいので、帽子を被るなどして対応しましょう。
もしも刺されたら
対策をしていてもアブやブユの猛攻に負けて、刺されてしまうこともあります。そんな時のために、少しでも症状を軽く出来るよう応急処置の方法を覚えておきましょう。
とくにブユに刺されると猛烈なかゆみに襲われますが、刺されても掻かないことが重要です。掻くと周囲に炎症が広がったり、細菌が入り込んで化膿する恐れがあります。かゆみをグッと堪え、以下の処置をしていきましょう。
- 毒液(唾液腺物質)を抜く
- 患部を水で洗い流す
- 抗ヒスタミン薬、ステロイド外用剤を塗る
①毒液(唾液腺物質)を抜く
刺されたらまず、患部から毒液(唾液腺物質)を抜きましょう。
指で摘んで絞り出す方法もありますが、ポイズンリムーバーを使って毒液を絞り出すのがおすすめです。
ポイズンリムーバーは毒液絞り出し専用の器具です。軽量コンパクトで、簡単に扱えながらしっかり毒液を絞り出すことができるのが特徴。虫の多い時期の登山ではエマージェンシーキットに入れておきたいアイテムです。
どちらの方法でも、刺されてからすぐに毒液を絞り出すと良いとされています。ポイズンリムーバーでは2分以内に処置を開始すると効果があると言われています。
②患部を水で洗い流す
毒液を絞り出すことが出来たら、肌をかかないようにしながら患部を水で洗い流しましょう。出来れば冷水で冷やしながら洗えると、かゆみが軽減するのでベストです。
もし、飲み水が少ない、水道が無いなどで洗い流せない場合は、ウェットシートで抽出した毒液を拭き取りましょう。
ブユは患部を温める?
ブユの唾液腺物質は温めることで成分を中和でき、痒みや腫れを抑えることが出来ます。
「かゆみが出る前に43℃以上で約30分間温め続ける」ことで効果があるようですが、登山中はすぐに温められる環境ではありませんよね。また、かゆみなどの症状が出てから温めるのは逆効果なので、登山中にこの行程は省略して大丈夫です。
③抗ヒスタミン薬、ステロイド外用剤を塗る
上記の処置が完了したら、市販の虫刺され薬を塗っておきましょう。
かゆみを鎮める「抗ヒスタミン成分」か炎症を抑える「ステロイド成分」が配合されている薬を使うと良いでしょう。
特に強いかゆみや腫れ、アブに刺された痛みなどの症状には、ステロイド外用剤(塗り薬)が有効です。
痛みがあって腫れがひどい、 1週間薬を使用しても改善がみられない、全身症状が現れた場合などは医療機関を受診しましょう。
おわりに
以上、登山で刺されたくない虫、アブとブユの生態と刺されないための対策解説でした!
蚊やハチに比べるとマイナーな虫ですが刺されるとその被害は同等、もしくはそれ以上のもの。しっかり対策をして被害を受けないよう登山を楽しみましょう。
それでは、おしまい!
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