“登山は痩せる”という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?この言葉を聞いてダイエット目的で登山を始めた人もいるのではないでしょうか。
確かに登山は痩せる要素が含まれるアクティビティです。しかし、登山でダイエットをしようという考えはちょっと危険。
今回は登山で痩せられる理由と登山でダイエットをした時の危険性について解説していきます。
登山がダイエットになる理由
「登山は痩せる」…そう言われる所以には登山が消費カロリーの高い有酸素運動であることが関係しています。
登山はテニスやバスケットボールの試合と同じ運動負荷がある
メッツ | 個別活動 |
---|---|
6.5 | 0〜4.1kgの荷物を持って山を登る |
7.3 | 4.5〜9.1kgの荷物を持って山を登る |
8.3 | 9.5〜19.1kgの荷物を持って山を登る |
9.0 | 19.1kg以上の荷物を持って山を登る |
上の表は、その活動でかかる運動負荷を分かりやすく数値化(メッツ)したものです。
登山は荷物量によって身体にかかる負荷が変動するのですが、9.5〜19.1kgの荷物を持って山を登ると“8.3メッツ”となります。(標高や急登、全身を使った岩稜帯歩きなどでも多少の変動あり)
メッツを提示している国立健康・栄養研究所によると、8.3メッツはテニスやバスケットボールの試合と同程度の運動負荷があるとしています。
9.5〜19.1kgの荷物を想像するのは難しいかと思いますが、大体小屋泊やテント泊をするときの重量になります。
試合を見たことがある人は分かると思いますが、どちらも相当ハードなスポーツです。それに匹敵するということは登山も相当身体に負荷がかかっていることが分かりますね。
登山はこのメッツ(運動強度)が高いうえ、基本的に長時間活動するため多くのカロリーを消費できるのです。
登山の時間や体重・荷物量によって消費するエネルギー量(kcal)は変わってきます。自分がどれくらいエネルギーを消費するのか知りたい方はこちらもご覧ください。
登山は効率的に痩せられる運動の組み合わせ
ダイエットでは、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と筋トレを組み合わせることで効率的に痩せられると言われています。
登山は全体的にみると歩行がメインなので、全身を使った有酸素運動であることが分かります。
有酸素運動は主に糖質と脂肪を燃料とするため、体脂肪の減少に有効的
これだけでも登山は痩せるということが分かりますね。
しかしそれに加えて、登山では重い荷物を持った状態で階段や大きな段差を登り降りすることが多々あります。登山で筋肉痛になったことがある人も多いと思いますが、筋肉は傷付き(筋肉痛)修復する過程で大きくなります。つまり、登山は筋トレになっているということです。
特に登山で使う脚やお尻の筋肉は身体の中でも大きな筋肉で、ここが鍛えられることで脂肪を減らすために重要な基礎代謝量を上げることができます。基礎代謝量が上がるとエネルギー(カロリー)の消費量が増えるので、痩せやすい身体になるのです。
登山は有酸素運動×筋トレのアクティビティだからダイエットになると言われるのですね。
登り降りをしていないので“登山”とは言えないかもしれないが、山小屋でアルバイトしている時の話をしようと思う。
私がアルバイトしていたのは3000m付近に建つ山小屋。小屋入りから1週間は動くたびに呼吸が乱れる、いわゆる高山病に襲われるような環境にいた。
アルバイトの内容で主に動くのは掃除の時で、他は立ち仕事であるが汗をかくような作業は特段ありません。食事も3食きっちり出て、夕食なんかはマンガ盛りのご飯と3品ガッツリのおかずを食べていました。
「下界にいる時よりご飯の食べる量多いし増えてんだろうな」と思っていたが、体重計に乗ってみるとあらびっくり。アルバイトを始める前は70kgあった体重が64kgになっているではありませんか!
この時、厚手のフリースと靴下を履いていたので、服の重量を抜くと62kgにはなります。8kgも落ちているのです。
汗をかくような運動もしていないし、摂取カロリーの方が上回るような量のご飯を食べていたのに体重が減ったのは驚きで、不思議でもありました。
なぜ減ったのか考えたところ、下界の時より体温が高かったことが原因では無いかという結論に至りました。
毎日仕事前に必ず体温を測っていたのだが、大体37℃以上。下界にいる時は36℃前半のことが多いので、ずっと微熱があるような状態だった。体調はいたって普通。
標高が高いところは体にとって過酷なため、生き延びるために体温(基礎代謝)を上げていたのかもしれません(その趣旨の研究データは見当たらない)。
体温が1度上がると基礎代謝量は13%上がると言われています。基礎代謝量が上がると多くのカロリーを消費することになるので、結果として痩せたのではないかということに。
「登山は痩せる」ではなく、「山にいれば痩せる」というのを体感したアルバイトでした。
※周りのスタッフに調査したところ、男性は体重が減る人が多く、女性は増える人が多いという結果になりました。体重の増減には個人差、性差もあるようです。
大量の汗をかいたことによる一時的な体重の減少
特に夏の登山では大量の汗をかきます。汗をかくということは、汗に含まれる水分が失われるため、体重が軽くなることがあります。
ただし、これはあくまで一時的なものです。
登山を終えてすぐに体重を測ってみると減っていることが多いので、「ダイエット成功してる!」と思いがちですが、これは体内の水分が無くなっているだけ。水分補給をすれば、また元通りになるでしょう。
普通に登山をしているだけでは痩せない
ここまで「登山をすると痩せる」と書いてきましたが、いくら消費カロリーの高い運動である登山だとしても、月1、2回に行く程度ではそうは痩せません。
また、登山後は多くのカロリーを消費してお腹が空くので、いつもよりたくさん食べる人も多いでしょう。しかし、たくさん食べてしまっては登山で脂肪を燃やせてたとしても元に戻ってしまいます。
これを踏まえ、登山で痩せる条件として①コンスタントに行く/②食事制限をすることが挙げられるでしょう。
①のコンスタントに行くというのは、週1とかではなく週2、3回の話です。
平地でのランニングや筋トレもそうだが、回数を多く、できるだけ継続することで結果がついてきます。登山は運動強度も高く1回の消費カロリーは他に比べて多いものの、ほとんどの人は月1、2回程度、多くても週1回の頻度と期間が空いてしまいます。
それだけ期間が空いてしまうと、身体は元通りになりいつまで経っても痩せません。
登山だけで痩せるとなると週2、3回行くことが理想になりますが、あまりにも現実的では無いので却下。
次に②食事制限をする。ダイエットと聞くと「食事制限」がパッと思いつく人もいるでしょう。
人間は食事で摂取したカロリーが消費するカロリーを上回ることで太ります。現代の人の多くはカロリーを過剰に摂取しており、運動習慣の減少により1日の消費カロリーは少なくなっているので、太りやすい生活・身体になっていると言われています。
登山をしてたくさんのカロリーを消費したからといって、下山後にその登山で消費したカロリーを上回る食事を摂ってしまえば意味がありません。
このことから「登山と一緒に食事制限をすれば痩せる」ということが分かりますね。
しかし、これが登山では問題視されているのです。
登山でダイエットは危険と言われる理由とその他デメリット
登山界隈では「登山でダイエットをしようなんて危なすぎる!」と批判的な声が多く出ています。
この「登山でダイエットは危険だ」と言われているのは、「登山当日に食事制限をした状態で登山をすることが危険」と考えてもらうと良いでしょう。
では、なぜそれが危険なのか、その他に食事制限をした状態で登山をするデメリットについて解説していきます。
食事制限をした状態で登山をすると“シャリバテ”になる
登山はエネルギー消費量が高い運動です。食事を制限し栄養不足のまま登り続けると、身体はシャリバテを起こしてしまいます。
シャリバテとは“身体のシャリ(飯、エネルギー)が無くなり、バテてしまうこと”を意味する登山用語。
シャリバテは身体のエネルギーとなるグリコーゲン(糖質)が不足すると起こる症状で、足つりや疲労感・脱力感が現れ身体が動かなくなったり、脳へのエネルギー供給が出来ず、意識の低下や注意力が散漫になったりします。
シャリバテになった時に即座に糖質の多いものを食べれば回復が見込めますが、「ダイエットだから」と言って全く食べないと、事故や遭難に繋がることは簡単に想像できるでしょう。
これが「登山でダイエットをしてはいけない」と言われる大きな要因です。
筋肉が減る
食事制限、特に糖質を抜くことで身体のエネルギーとなるグリコーゲンが枯渇します。このグリコーゲンが枯渇すると、次に身体はタンパク質を分解してエネルギーに変換しようとします。
筋肉はタンパク質で構成されているため、タンパク質が分解される=筋肉も分解されてしまうということ、つまり筋肉量が減ってしまうのです。糖質だけでなくタンパク質も少ない食事制限をしていれば、余計筋肉は減ってしまうでしょう。
筋肉量が減ると、同時に基礎代謝量も落ちてしまいます。代謝が落ちるとエネルギーが消費されなくなり、体温が維持できなくなるため、体は熱を逃がさないようにと脂肪を蓄積しようとするので、さらに太ってしまいます。
また、筋肉が減るとは筋力も落ちると言うこと。筋力が落ちれば体への負荷が大きくなるため、疲れやすい体にもなってしまいます。
糖質を抜くと痩せにくくなる
「糖質制限ダイエット」といって、糖を摂らないことで脂肪を優先的に使うようにするダイエット法があります。
しかし、脂肪を優先的に利用するためには他にも栄養素が必要で、糖質を制限してしまうとその必要な栄養素が体内で作られず、脂肪の燃焼効率が下がってしまうのです。
汗をかく=痩せるは間違い
食事制限とは違う話になりますが、登山で汗をかくことについてもお話ししたいと思います。
たくさんの汗をかけば痩せると思っている方もいるでしょう。実際、サウナで汗をかいて痩せたり、ボクシングで大量の汗をかいて減量している選手がいるのを見たりしますので、汗をかけば痩せると思うのに無理はありません。
しかし、その考え方は間違い。
先にも説明しましたが、汗をかくことで一時的には体重は減りますが、これは水分が無くなっているだけで肝心の脂肪は落ちていません。
汗をかけば痩せると思っている人は、登山でもダイエットのために汗をかこうとするでしょう。
しかし、登山で汗をかくことはかなり危険なこと。かいた汗を放置すると汗冷えしたり、水も飲まないとなると脱水症状になる可能性があります。
汗冷えや脱水症状は命の危険にも繋がる症状なので、ダイエット目的だからといって無理に汗をかこうとしたり、水分補給を制限するのはやめましょう。
登山と日常的なダイエットを組み合わせて健康的に痩せよう!
1週間に1回のような頻度の登山だけでは痩せません。だからといって毎日行くのは現実的ではない。登山時に食事制限をすれば痩せられるけど危ない。ではどうすれば良いか。
まず、登山だけで痩せようと考えるのはやめましょう。思考を変え、登山をしつつ日常生活で運動や食事制限を取り入れて痩せるという考え方にすると、より健康的で良いダイエットになるでしょう。
休日だけ登山にいって運動するだけでは運動量が足りません。それを補うために日常でも運動を取り入れることで継続的に運動することができ、痩せやすい身体になります。
できるなら、日常で取り入れる運動も有酸素運動と筋トレ両方するのがおすすめです。
また、日々の食事を見直してみるのも有効です。カロリーを気にして食事をしないと現代の食事ではカロリーオーバーになっていることも珍しくはありません。そういう場合は食事制限も取り入れると良いでしょう。
こうすることで、より効率よく健康的に「登山をしながらダイエット」ができます。
食事制限をする場合は登山の当日と前後は忘れ、しっかり栄養を取りましょう。特に登山後の食事はボディービルダーの人がやっている「チートデイ」だと思って、たくさん食べて栄養を摂ることも良いでしょう。
普段から食事制限を取り入れながらのダイエットをする場合は、チートデイを取り入れることで基礎代謝の維持ができ、さらに痩せやすい身体になります。
登山をしながらダイエットがしたいと思った方は、今回説明したことに気をつけながら安全に楽しんで行ってください!
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