登山で避けられないのが虫の存在。自然豊かな環境で行う登山では多くの虫と出会います。
とくに山ではアブやスズメバチ、ヤマビルやマダニなど、人に危害を加えてくる「毒虫」の存在が目立ちます。
これらの虫によって、毎年多くの登山者が被害を受けており「怖くて山に行けない…」なんて方もいるのではないでしょうか。
今回はその不安を取り除くべく、登山で毒虫に刺されないための対策を伝授していきます!
- 登山で出会う虫とその危険性
- 登山でしておきたい虫対策とおすすめの虫除けグッズ
- 刺されてしまった時の対処法
「刺されて痛い思いしたから今後は対策していきたい」「そもそも苦手だから近づいてほしくない」という方必見です。
登山で対策したい虫の種類
まず、登山で虫対策をする上では敵を知ることが重要です。
ここでは、登山で出会う虫について解説していきますので簡単に理解しておきましょう。
登山において被害や目撃情報が多い虫は以下の7種類です。
毒虫の種類 | 症状 | 活動時期(ピーク) |
---|---|---|
蚊 | かゆみと発疹 | 4月〜11月ごろ(7〜9月) |
アブ | 刺された直後に激しい痛みと出血 その後かゆみと腫れ | 6月〜9月 |
ブユ(ブヨ) | 刺された箇所の出血点と激しいかゆみ | 3月〜10月(梅雨入り〜9月) |
スズメバチ | 激しい痛みと皮膚の腫れ 場合によって息苦しさや腹痛などの全身症状 | 5月〜11月(8〜10月) |
マダニ | 軽度のかゆみや痛み、皮膚の発赤 後に感染症を引き起こす可能性あり | 4月〜10月 |
ヤマビル | 出血、軽度のかゆみ | 4月〜11月(6〜10月) |
毛虫 | 激しいかゆみと痛み、発疹や皮膚の赤み | 4月〜10月(4〜6月、8〜9月) |
山だからと言って名前も知らないような虫に刺されるわけではありません。上の表からわかる通り、平地でも被害に遭う可能性のある虫たちばかりです。
特に注意しておきたい虫はスズメバチとマダニでしょう。
スズメバチは刺された直後の激しい痛みと腫れが怖い虫ですが、なによりも2回目以降に発症する恐れのある腹痛や呼吸困難、血圧の低下などの全身症状(アナフィラキシーショック)が非常に危険。最悪、命を落とす場合もあります。
低山や里山で見られることが多く、攻撃的になる8月〜10月には必ず対策していきたい生き物です。
また、マダニは吸血されている時は気が付かないことが多く、刺された直後の症状も軽度だが、のちに命を落とす可能性がある重篤な感染症(SFTSなど)を発症するケースがあるので十分注意が必要。
刺されていることに気づかないと言えば、登山特有の生き物「ヤマビル」も気をつけたい虫の一種。とくに、神奈川県の丹沢山塊で多くの被害を出しているヤマビルは湿気を好み、雨の日やその翌日に活発に活動して人や野生動物の血を吸います。
ヒルに吸血されると出血が止まらなくなるのが非常に厄介。痛みやかゆみはほとんどないですが、止まらない血やその見た目から多くの登山者に嫌われる生き物です。
夏になると毎日のように出会う蚊、刺されると激しいかゆみや腫れに襲われるアブやブユ(ブヨ)、遭遇する数は少ないが毛虫なども、症状や刺された箇所によっては下山を強いられる可能性もあるので油断できません。
害がないためこの記事で大きくは扱いませんが、顔の周りにまとわりいて離れず精神的ストレスを与えてくる「メマトイ」も対策したい虫に挙げられますね。追い払っても近寄ってきて登山に集中できずに困っている方も多いかと思います。
このメマトイも他の虫と同じように対策をしていれば被害(嫌がらせ)もある程度減りますので、今回の虫対策を参考にしてみてください。
登山で虫対策をするのは春〜秋の3シーズン
毒虫の活動時期は大体4月〜11月、春〜秋の3シーズンに集中しています。また、梅雨が始まる6月〜10月に活動が活発になる虫が多くいます。
このことから、特に3シーズンは虫対策を忘れずにしていくことが重要だと言えます。
しかし、表で記載した活動時期はあくまで平地での活動時期です。(ヤマビルを除く)
山では春秋の気温が低いことが多く、生息はしているが数が少なかったり、活発ではなかったりします。そのため、登山口の標高が高い山や北海道など、場所によってはもう少し活動時期が短い虫もいます。
ただし、低山などでは下界との環境差があまりないため、この活動時期とリンクすると考えておいてください。
虫に刺されやすい人の特徴
登山では虫に刺されやすい人と刺されにくい人がいます。
その特徴を知ることで対策できることもありますので、自分が当てはまっていないかチェックしてみましょう。
- 体温が高い人
- 汗かきの人
- 呼吸が荒い人
- お酒を飲んでいる人
- 香水やヘアスプレーをつけている人
- 汗や体臭が臭う人
登山で出会う虫たちはみんな、人間の体温、二酸化炭素、汗、匂いなどを感知して近寄ってきます。
汗をかきやすい人や体温が高い人というのは運動量の多い登山では誰もが当てはまるものです。
しかしそれは、ペースを落として登ることで汗をかきすぎず、呼吸も乱さないように対策することができます。
汗かきや体温が高いのが体質という人は対策しづらいので、次の項で紹介する虫対策をしっかり行いましょう。
蚊やブユなどの「刺されるとかゆい虫」は汗や体の匂い、顔の脂にも反応すると言われていますので、普段から体を清潔に保っておきましょう。
また、登山の前日と当日にはお酒を控えたり、香水などの匂いの強いものを身につけないことで刺されにくくなります。香りのある制汗剤も刺される原因になるので使用は控えると良いでしょう。
次の項では、ここで紹介した特徴も踏まえながら登山でしておきたい虫対策を解説していきます。
登山でしておきたい虫対策6つのポイント
それぞれ飛んでいたり地面を這っていたり、刺したり吸血したりと種類によって生態や吸血方法は異なります。
しかし、どの虫も基本的な対策は同じです。
自分が行く山にどんな虫がいるかわからないという場合でも、この基本を押さえて対策していくことで毒虫による被害を抑えることができます。ぜひ覚えておきましょう。
①衣服で肌を隠す
虫が多い山では「長袖・長ズボン」で肌が露出しない服装を心がけましょう。
登山の虫対策において一番重要なポイントは「服装」です。毒虫はすべて、皮膚を刺すか咬むかして攻撃してきます。肌を隠すことでそれらの攻撃から身を守れる確率が大きく変わってきます。
しかし、夏場での長袖・長ズボンって聞くと暑そうですよね。長袖・長ズボンを履いて虫対策が出来たからといって、熱中症になってしまっては元も子もありません。
とくに暑い時期に着ていく長袖は、着脱がしやすく薄手で風通しの良いフリースやパーカー、もしくは吸湿速乾性の高い薄手のベースレイヤーが良いでしょう。
多くの登山メーカーから暑い夏でも着れる長袖が販売されています。
その中でも、日本のアウトドアブランドFoxfire(フォックスファイヤー) から出ているSCウィンドパスフルジップがおすすめ。
防虫剤を生地そのものに頑強に固着させ、繊維に虫を寄せつけない特殊加工を施した素材「スコーロン」を採用しており、生地表面にとまったり、くっついたりした蚊やマダニなどの小さな虫は刺すことなく逃げていきます。
しかし、ハチやアブなどの大きな虫の攻撃は防げないので油断しないように。
また、ヒルやマダニは衣服で肌を隠していたとしても登山靴の中に入ってきたり、シャツの袖口に忍び込んでくることがあるので注意が必要です。
それらの虫が多く発生している山にいく場合は、手袋で袖口を覆ったり、ズボンの裾を靴下に被せるなどの万全な対策をしましょう。
頭や首元を隠すのも忘れずに
黒い髪色が多い日本人は頭部を狙われやすいので、帽子をかぶって頭や首を守りましょう。
特にスズメバチに頭部を刺されると、アナフィラキシーショックの重症化リスクが高まりますので帽子装着は必須です。
サンシールド付きの帽子なら、頭と首を同時に虫から守りながら日焼け対策もできておすすめです。
害はないものの顔へのアタックがとても不快なメマトイ対策としては、虫除けネット付きの帽子が良いでしょう。
不要な時は取り外し可能なので普通の帽子としてもお使いいただけます。
防虫効果も付与されているので、メマトイ以外の虫にも効果が期待できます。
②黒色や濃い色の服は避ける
虫が多い時期は黒色や濃い色の服は避け、白や明るい色の服を着ていきましょう。ザックや帽子などの装備品にも注意してください。
蚊やスズメバチなど複眼を持つ虫は色を識別することができ、黒や紺色、赤色などの濃い色の服を着ていると刺されやすい傾向にあります。
スズメバチにとって黒色は天敵である「クマ」に見えるため、間違って刺してくるとも言われています。
また、黒や深緑色などの服は熱の吸収率が高く、太陽の光を浴びると白色の服に比べて20℃も温度が高くなるという結果が国立環境研究所から報告されています。
このことから、体温をあげてしまい汗もかきやすくなるので、先ほど紹介した刺されやすい人の特徴に当てはまってしまいます。
体温が上がると熱中症の原因にもなるので、いずれにせよ黒や濃い色の服は避ける方が良いでしょう。
③虫除けスプレーを使用する
衣服で身を隠してたとしても虫は近寄ってきます。そのため、近づいてきた虫に刺されないためにも虫除けスプレーをすることが重要です。
現在、市販されている虫除けスプレーの成分には「ディート」「イカリジン」「天然成分」の3種類があります。
「ディート」や「イカリジン」といった成分には人間を見つけるための感覚器官を麻痺させて、人間がいるかどうかを分からなくさせる効果があります。
どの成分も虫除け効果はありますが、忌避対象(効果のある)虫や持続時間が違ったりします。また、肌質や匂いの好みによっても使える虫除けが変わってきますので、「どの成分のこの商品がおすすめ」とは言い切れません。
そのため、ここではそれぞれの成分別の商品を1つずつ紹介します。
まず初めはディートを使った商品の紹介です。1本で済ませたい方や効果の高いものが欲しい方にはディートを使用した虫除けスプレーがおすすめです。
おすすめのディート配合虫除けスプレー
- 蚊
- マダニ
- ヤマビル
- ブユ(ブヨ)
- アブ
- イエダニ
- ノミ
- トコジラミ
- サシバエ
- ツツガムシ
ディート配合の虫除けスプレーは、上記のように多くの虫に対して効果があります。また、濃度が高いほど持続時間が長く、最大で8時間効果が続くものもあります。
現在、日本国内では濃度30%までが認められています。濃度30%ともなると持続時間が長いことに加え、吸血されると厄介なマダニやヤマビル、ツツガムシなどかなりの種類に対して効果が期待できます。
ムヒの虫除けペールは安価ながらディート30%配合で、蚊、マダニ、ツツガムシ、アブ、ノミなど多くの虫に効果が期待できおすすめ。
大容量なので塗りムラが無くなるようたくさん使っても安心です。さらっとパウダー配合で汗によるベタつき感も軽減してくれます。
ただし200mlと容量が大きいため携行はしにくいので、家や車でつけていきましょう。
ディートは毒性が低いとされていますが、肌が弱い方は赤みが出たり、子どもへの使用や顔まわりの塗布は制限されていますので注意が必要です。
顔まわりに使う際や肌の弱い方は「イカリジン」や「天然成分」を使用した虫除けスプレーを使うと良いでしょう。
おすすめのイカリジン配合虫除けスプレー
- 蚊成虫
- ブユ(ブヨ)
- マダ二
- アブ
肌の弱い方や顔にも使用する場合はイカリジン配合の虫除けスプレーを使うと良いでしょう。
ディートを使用した製品に比べて忌避対象は少なくなるものの、十分な虫除け効果があります。持続時間も濃度15%のものなら8時間ほど続くので、日帰り登山であれば塗り直す必要がありません。
スキンベープミスト イカリジンプレミアムはイカリジンを15%配合しており、6〜8時間の長い虫除け効果を発揮してくれます。
無香性で虫除けの匂いが苦手な方でも使いやすく、ヒアルロン酸配合でお肌にも優しい虫除けスプレーです。
山小屋で泊まった際に被害に遭う可能性のある「トコジラミ」に対しても効果を期待できるのがポイント。
おすすめのアロマ虫除けスプレー
- 蚊
- ダニ
- メマトイ
環境に優しいものが使いたい、虫除けの香りが苦手という方には天然成分を使ったアロマ虫除けスプレーがおすすめです。
アロマ虫除けスプレーとは、ハッカ油を中心にラベンダーやレモングラスなど虫が嫌がる匂いの精油を配合したスプレーです。
忌避対象が少ないこと、匂いがなくなると効果が切れるので持続時間が他に比べて短いのがデメリットですが、香りでリラックスできることや肌と環境に優しい点は見過ごせません。
長年、ナチュラリストに愛用され続け、多くのアウトドアショップでも取り扱いのある「パーフェクトポーション アウトドア ボディスプレー 」がおすすめ。
世界中から厳選した天然素材のみを使用して作られたオーガニックな虫除けスプレーです。50mlとコンパクトで登山に持っていくのに最適なサイズです。
しかし、アロマ虫除けスプレーはスズメバチに関しては逆効果になる恐れがあります。
- ラベンダー、レモングラス、シトロネラ、ゼラニウム
上記の精油は虫除け効果が期待できアロマ虫除けスプレーによく使われていますが、ハチが好む香りでもあります。
これらの精油を使ったスプレーは、スズメバチの目撃情報がある山では使用を控えると良いでしょう。
もし、スズメバチのいる山でも天然成分の虫除けを使いたい場合は、ハッカ油のみで作った虫除けにしましょう。自宅でも簡単に作れるので、ぜひ試してみてください。
虫の寄り付きを防ぐならハッカ油が最強です!
先ほどもお伝えした通り虫刺されは防いでくれる虫除けスプレーですが、虫の寄り付きは防げません。顔にまとわりついて非常に不快なメマトイも近寄ってきます。
そもそも虫が寄ってくるのを防ぐにはハッカ油が最も効果的です。
ハッカ油はそのスーッとした爽やかな香りに虫を近寄せない忌避効果があり、不快なメマトイだけでなくハチや蚊も寄せ付けない効果が期待できます。
最近では多くの登山者がハッカ油を使用しており、すれ違うたびに爽やかな香りを漂わせていますよ。
○ハッカ油の虫除けスプレーの作り方
【用意するもの】
・ハッカ油……3〜4滴
・無水エタノール……10ml
・水……90ml
・スプレー容器①無水エタノール10mlを準備して、ハッカ油を少量(3〜4滴)垂らして混ぜます。
引用元:健栄製薬
②ハッカ油の量は、刺激が強くなり過ぎないように、少しずつお試し下さい。水を90ml入れて混ぜ合わせ、スプレーボトルに入れたらできあがり。
作り方も簡単ですので、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
もちろん、先ほど紹介したアロマ虫除けスプレーでもハッカ油が入っているものは同じ効果があります。ハッカ油だけの匂いが苦手な方はそちらをお使いいただくと良いでしょう。(ハチには逆効果なので注意しましょう。)
ヤマビルに対してはヒル専用スプレーが最適解
虫除けの中でも、ニッチなアイテムとしてヒル専用のスプレーがあります。ヤマビルに対してはこれが一番効果的。
ヤマビルは湿度を好み、雨の中でも活発に活動します。上記で紹介した虫除けスプレーは持続時間が長いものでも、雨や汗などで濡れると効果が落ちてしまいます。
その点、ヒル専用のスプレーは耐水性を高めたものになっているので、「効果が落ちていつの間にか吸血されてる!」なんてことが無くて安心です。
除去する際にも使用できるので、ヤマビルが多い山域に行く際は必携のアイテムです。
「ヒル下がりのジョニー」はインパクトの大きいネーミングながら、環境に優しい成分を使いつつ高いヒル除け効果の期待できるスプレーです。
登山靴やズボンなど衣類に吹きかけてお使いください。
虫除けスプレーをしても刺される?それは「塗りムラがあるから」かもしれません
「虫除けスプレーをつけても刺されることがある」という人もいるかもしれません。
こういう方は「塗り方が甘い傾向」にあります。
虫除け成分の「ディート」や「イカリジン」は匂いで人を認識できないようにしているわけではありません。
そのため、少しでも塗りムラがあると「そこに肌がある!」と認識して刺してきます。
スプレーやミストタイプの虫除け剤を使う場合は、肌から15センチほどの距離から吹きかけ、塗りムラが無くなるように手で広げ伸ばしましょう。
そうすることで「虫除けスプレーしたのに…」ということは無くなるはずです。
持続時間が長くても塗り直すのが刺されないための鍵
大量の汗をかいたりタオルで拭いた後は、虫除けスプレーの効果が落ちてしまうのでこまめに塗り直すことが肝心です。
ここまで、効果の持続時間が長いものや耐水性のある虫除けスプレーを紹介してきましたが、夏は暑く運動量の多い登山では大量の汗をかき、いくら持続時間の高いものでも効果は落ちてしまいます。
そこで、登山では虫除けスプレーを塗り直すことが毒虫に刺される確率を大幅に下げてくれる鍵となります。
出発前に一度塗ったとしてもまた山中で使えるよう、携行性の高いコンパクトな虫除けスプレーをザックに入れていくと良いでしょう。
虫除けグッズ「おにやんま君」も効果的!?
薬品も電池も使わない環境に優しい虫除けグッズとして話題を呼んだ「おにやんま君」。アウトドアを楽しむ方が装備しているのも目につくようになってきました。
主にオニヤンマを天敵とするスズメバチやアブが対象になり、襲ってきたら非常に怖い虫から身を守ってくれます。
軽量なため登山にも持っていきやすい虫除けグッズです。
虫除けスプレーと一緒におにやんま君を装備していけばさらに効果が期待できますので、ハチやアブの被害情報が出ている山に行く場合は付けて行ってみてはいかがでしょうか。
④匂いの強いものは避ける
蚊やスズメバチなどの飛んでいる虫たちは匂いにも敏感で、香水、ヘアスプレー、制汗剤の匂いに反応して近づいてくる恐れがあります。
虫が多い時期の登山ではフレグランス類をつけていくのは控えましょう。
匂いものとしてフレグランス以外にも食事、特に甘いものにも反応するとされています。行動食や水分補給をした時の食べこぼし、飲みこぼしには注意しましょう。
⑤汗をこまめに拭く
蚊、アブ、ブユは汗(水分)に寄ってくる習性があり、汗で濡れていると刺されやすくなります。汗をかいたらこまめに拭き取りましょう。
特にベタベタした汗を好みますので、そういった汗をかきやすい人は注意が必要です。
これらの虫は汗に含まれる成分を感知して近づいてきます。また、どの虫も水辺で産卵、生息しているのも汗を好む理由かもしれませんね。
しかも、汗をかくと虫除けスプレーの効果も落ちてさらに虫を引き寄せやすくなってしまいます。出来るだけ汗をかかないようにするのも虫刺されを防ぐ一つの手かもしれません。
⑥虫が多い山域を避ける
これまで虫に刺されないための対策を紹介してきましたが、それらの対策をせずとも虫を気にせず登ることが出来る方法があります。
それは、虫が多い山域を避けるという単純な方法です。
山は多くの生き物が生息する自然豊かな環境ですので何かしらの虫は存在しますが、山や年によって虫の数が違ったり、全くいない場所もあります。
ここでは、虫別で目撃例のある山や活動場所の一例を挙げておきます。
- ヤマビル ー 丹沢山塊(神奈川県)、妙義山(群馬県)など
- スズメバチ ー 里山や低山に生息
- マダニ ー 薮や獣道のような草が生い茂る場所
- アブ ー 八ヶ岳や尾瀬でよくみられる
- ブユ ー 谷川岳や雲取山、筑波山、高尾山にも生息
- 蚊 ー 沢などの水辺に生息
- 毛虫 ー 日当たり・風通しの悪いツバキ、ツツジ類、ブナ類などの樹木
- メマトイ ー 樹林帯ならどこでも
これを参考に、その虫の活動ピーク時は生息している山を避けて登るのも良いでしょう。
しかし、虫を怖がって避けていると登りたい山も登れなくなってしまいます。
なるべく、自分が登りに行こうとしている山での目撃・被害情報を事前にチェックしつつ、これまで紹介した対策を行いたくさんの山に登っていただきたいと思っています。
下山後に虫が付いていないかチェックしよう!
飛んでいる虫はその場で刺してきますが、ヒルやマダニは服やザックに張り付いて吸血の機会をうかがっていることがあります。
下山後に刺されたという話もよく聞きますし、私自身、気づかずヒルを家に持ち帰ってしまったことがあります。
また、ヒルやマダニは吸血されていても気が付かないことが多い虫です。
下山後には吸血されていないか、装備品に付いていないか必ずチェックしましょう。
早めに対処することで被害を最小限に抑えることができます。
虫に刺された時の対処法
これまで紹介してきた対策を万全に行っていても、毒虫たちの気が立っていたり住処に入ってしまうと餌食にされてしまいます。
もし、毒虫に刺されたらどうすればよいのか、慌てずに対処できるよう覚えておきましょう。
対処法は大きく「飛んでいる虫」「ヒル」「マダニ」「毛虫」に分けることが出来ます。
蚊、アブ、ブユ、スズメバチに刺されたら
まず、蚊やアブなど飛んでいる虫に刺された時の対処法について解説していきます。
こちらの対処法は他の虫でも通ずるところがありますので、しっかり覚えておきましょう。
刺された場所はその虫の住処であったり、ハチであれば警戒フェロモンを出して仲間を引き寄せることがあり、さらなる被害を受ける恐れがあります。
刺されたらまずはその場から慌てずに離れましょう。ハチであれば50〜100mほど離れると良いでしょう。
また、蚊やブユは刺されると非常に強いかゆみを引き起こしますが、絶対に掻かないことが重要です。
掻くと周囲に炎症が広がったり、細菌が入り込んで化膿する恐れがあります。
かゆくても我慢し、適切に対処をすることが重要です。
①毒液(唾液腺物質)を抜く
まず、虫に刺された時の最初にやる応急処置として毒液(唾液腺物質)の吸引が挙げられます。
これらの虫による症状は、刺された時に皮膚に注入された毒液(以下、毒)に対して引き起こされるアレルギー反応です。その元となる毒を取り除くことで、かゆみや痛みなどの症状を和らげることが出来ます。
おすすめは「傷口を流水で洗い流しながら毒を抽出すること」です。
しかし、水道が無かったり単独行動だと、洗い流すのと絞り出しを同時に行うのは困難かと思われます。
もし、この方法がすぐに取れない環境の場合は毒を体内から抜くことを優先しましょう。
手で患部周囲を摘むことで毒を絞り出すことも出来ますが、毒吸引専用の器具「ポイズンリムーバー」を使用することをおすすめします。
刺された部位にマウスピースを押し当て、レバーを引くことで毒を吸引することが出来る器具で、手よりも絞り出しが確実に行えて症状をある程度抑えることが可能です。
使い方も簡単、軽量かつ安価で登山に持っていきやすい。虫の多い時期にはザックに入れておきたいアイテムです。
刺されてから時間が経つと毒が体内に回ってしまい、毒を絞り出しても効果が得られません。どの虫に刺されたとしても2分以内にはポイズンリムーバーでの処置を行うようにしましょう。
虫の多い時期には、すぐに処置できるよう使い方を確認しておき、ザックの取り出しやすい場所に入れておくと良いでしょう。
毒を口で吸い出すのはNG行為とされています。
毒を口で吸い出すと、口内の細菌が傷口から入って感染症を起こす可能性があります。また、口内に傷や虫歯があるときは、その傷口から毒が入り込み毒の循環を早めてしまうので、絶対に行わないでください。
②患部を水で洗い流す
毒を吸引することが出来たら、次は患部を流水で洗い流しましょう。
水で洗うことで患部を清潔に保ち、感染症や化膿するリスクを減らします。その他にも毒を薄める効果や傷口を冷やして痛みを和らげる効果も期待できます。
もし、使える水がない場合はウェットシートなどで優しく押し当てるようにして吸引した毒を拭き取りましょう。この際、患部をかいたり擦ったりしないように気をつけましょう。
③抗ヒスタミン薬、ステロイド軟膏を塗る
上記の処置が完了したら、抗ヒスタミン薬やステロイド軟膏を塗りましょう。
症状がつらく掻きこわしてしまうと、症状が悪化したり痕が残ってしまう恐れがありますので、我慢せず早めに薬を活用すると良いでしょう。
使うものは、かゆみを鎮める「抗ヒスタミン成分」か炎症を抑える「ステロイド成分」のどちらか、あるいは両方が配合されている塗り薬にしましょう。
蚊に対しては抗ヒスタミン薬で十分ですが、強いかゆみや腫れ、アブやハチによる痛みに対してはステロイド軟膏がおすすめです。
ヤマビルの被害に遭ったら
ヒルは音も無く、さらには痛みやかゆみもなく吸血されていることがほとんどです。気づかなければ30分〜1時間ほど吸血され続けられます。また、ヒルに咬まれると大量に見える出血を伴います。(実際は少量)
だからと言って、生死を彷徨ったり貧血にはならないのでご安心を。気がついたら慌てず対処しましょう。
ヒルの対処法としてはまず、皮膚からヒルを引き剥がします。
先ほど紹介したヒル専用のスプレーを吹きかけることで簡単に剥がれ落ちます。ライターの火で炙ったりや塩を振りかけるのも効果的です。
ヒルが多い山に行く時は被害にあった時に対処できるよう、どれかしらのアイテムは持っていくようにしましょう。
ヒルを皮膚から引き剥がすことが出来たら、先ほど飛んでいる虫の対処法で紹介した行程を行ってください。
ヒルの被害は唾液腺物質を取り除かないと血が止まらない場合があります。血を一度洗い流したら手やポイズンリムーバーを使用して唾液腺物質を絞り出しましょう。
その際にポイズンリムーバーを使うと、本体内部に血が付着することがあります。
別の機会に再度それを使うと血液感染を引き起こす可能性があります。本来は洗って使い回すことが出来ますが、血が本体内部に付着した場合は使い終わったら捨てましょう。
マダニに噛まれたら
マダニもヒルと同じで咬まれている際は気づかないことがほとんど。気づかなければ数日から長いものは10日間以上も吸血します。
マダニは皮膚に頭を突っ込んで吸血するスタイル。また、マダニは感染症の恐れがあるということから自分で取り除くのは怖いと思う方もいるかもしれませんが、取り除くこと自体は比較的簡単です。
発見したら、ピンセットやマダニ除去専用の器具「ティックツイスター」を使って、口器の部分を摘んでゆっくり引き抜きましょう。
マダニの腹部を指で摘まんだり、潰さないよう注意しよう!
取り除けたら患部を水で洗い流します。マダニの症状は軽度のことが多くポイズンリムーバーや軟膏の使用は不要です。
咬まれてから24〜48時間以内であれば簡単に取り除けますが、それ以上経つとセメントの様な物質を吐きながら吸血するため、自分では引き剥がせないほど強く張り付いてしまいます。
もし、被害に遭ってから数日経っているようであれば医療機関(皮膚科か外科)を受診しましょう。
また自分で取り除いた後、かゆみや痛みが残る場合は口器が皮膚内に残っている恐れがあります。その際も受診すると良いでしょう。
毛虫に刺されたら
毛虫は虫本体に触るだけでなく、風に乗ってきた毒針毛(どくしんもう)が体に付着するだけでも毛虫皮膚炎を引き起こします。
毛虫の毒針毛は見えにくく、何に刺されたかわからないことがあります。もし毛虫に触っていなくても、上の写真のようなブツブツが見られたら毛虫による被害だと想定して対処しましょう。
まず、毛虫に刺されたら絶対に患部を掻かないでください。掻くことで毒針毛が周囲に広がり症状が悪化します。
刺されたら患部を触らないように気をつけながら、ガムテープなどの粘着テープを患部に優しく押し当て、毒針毛を取り除きましょう。
しかし、登山に粘着テープの類を持っていってる人はほとんどいないと思います。(エマージェンシーキットに医療用テープが入っている場合はそれを使いましょう)
粘着テープがない場合は流水で患部をよく洗い流しましょう。この時も患部を触ったりこすって洗うのは禁物です。
毛虫による症状はかゆみや炎症が強いため、症状が辛い時はステロイド外用薬を塗りましょう。
また、毛虫に刺された際は毛が衣服に付いていることも多いです。
着替えを持っている場合は触らないように気をつけて脱ぎ、すぐに着替えたほうが良いでしょう。
全身症状が出たら医療機関を受診しよう
今回紹介してきた虫による症状は全て、皮膚に注入された毒(物質)によって引き起こされるアレルギー反応です。
ハチに2回目以降刺された場合には痛みや腫れのほかにも、息苦しさや腹痛などの全身症状を引き起こし、重症では意識喪失や呼吸困難になることもあります。
これはアナフィラキシーショックと呼ばれる命にも関わる大変危険な状態です。
ハチに刺された際にこのような違和感や症状が出た場合は迷わず救助を要請しましょう。
救助を待っている間に症状が悪化し手遅れになることもあります。先ほど紹介した対処法を行いつつ、回復体位を取って気道を確保するなど、出来うる限り最善の処置をしておきましょう。
これまでにハチに刺されたりアナフィラキシーショックを引き起こしたことがある人は、医療機関で「エピペン」という自己注射薬を処方してもらうことが出来ます。
自己注射薬を打つことで最悪の状況を回避できる可能性が高まりますので、心配な方は医療機関に相談してみましょう。
毛虫もごく稀ですが、重篤なアレルギー症状で頭痛や吐き気、めまいなどの全身症状が現れることがあります。
また、近年はマダニに刺されて感染症を発症するケースが増えています。マダニが媒介する感染症は種類が多く、命を落とす可能性のあるSFTS(重症熱性血小板減少症候群)を発症する恐れもあり非常に危険です。
感染症の症状は被害にあってから数日〜数週間後に現れます。マダニに刺されてから数週間は経過観察を怠らず、少しでも「いつもと違うな」と感じたら医療機関を受診しましょう。
おわりに
以上、登山でしておきたい虫対策6つのポイント解説でした!
登山で出会う毒虫は平地と大して変わらないですが、登山中に被害に遭うと万全な処置ができず症状が長引いたり、すぐに救助が来れないためアナフィラキシーショックを起こした際のリスクが高まります。
そのためにも刺されないための対策が何よりも重要です。今回紹介した対策をしっかり行って虫刺されの心配を取り除き、安全に登山を楽しんできてください。
それでは、おしまい!
コメント