富士山登山や標高が高い山に登るときに心配になるのが“高山病”。
すでに高山病に苦しめられた経験がある方もいるのではないでしょうか。
高山病の症状は頭痛や食欲が落ちたりなど様々…高山病になるとせっかくの景色が楽しめなくなるほど辛いこともあります。
しかし、原因を理解してしっかり対策を取ることで症状が出なかったり、症状が出ても軽く済んだりします。
今回は、標高が高い山に行くときに必ず実践したい高山病対策をまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
※まとめ記事のため長文になっています。目次をクリックすると見たいところにジャンプしますので、気になるところからご覧ください↓
高山病とは一体どんな病気?
高山病…それは高所に行けば誰しもがなりうる病気です。
標高が高いところでは気圧が下がり酸素の量が減ります。そのような高地環境に急速に移動すると環境の変化に順応することができず、頭痛や吐き気などの様々な症状が出ます。それら特徴的な症状を総称して「高山病」と呼びます。
症状が出現する標高やその高さに慣れるまでにかかる時間には個人差があり、同じ人でもその時の体調によって異なりますが、標高2500mを超えると登山者の約20%が軽度の高山病の症状を訴えるとされています。
高山病の症状
高山病とは、特定の病気を示す医学的な病名ではなく、高山で発症するさまざまな症状を総称したものです。
一般に高山病と言われる病気には急性高山病、高地肺水腫、高地脳浮腫といったものがあり重症度が異なります。
病名 | 症状 |
---|---|
急性高山病 | 頭痛 食欲低下、悪心・嘔吐などの消化器症状 全身倦怠感や脱力感 立ちくらみやめまい 睡眠障害 |
高地肺水腫 | 呼吸困難、せき 歩行困難 胸部圧迫感(胸を締めつけられるような感じ) 頻脈(脈が速い) |
高地脳浮腫 | 運動失調(まっすぐ歩けない) 見当識障害(日時や場所がわからなくなる) 昏睡 |
高山病の症状は高所に急激に移動した後、数時間から1日以内に現れることが多いとされています。
高山病になると頭痛はほぼ必ず起こり、その他に食欲低下、吐き気・嘔吐、倦怠感などの症状が併せて現れます。
長期間高所で滞在する場合は、数日で高地環境に順応し軽症化しますが、一部は「高地肺水腫」や「高地脳浮腫」などの症状が現れる場合もあります。
高地肺水腫は急性高山病と合併することが多く、安静時の呼吸困難や咳などの症状が特徴です。重症化するとピンク色の泡のような痰や喀血することもあります。
高地脳浮腫は命に関わる重篤な状態で、急性高山病に加えて運動失調や見当識障害といった症状がみられ、これを放置した場合、昏睡から死に至ります。
標高3,000mに建つ山小屋でのアルバイト。
私と同時期にアルバイトに入った30代女性(Aさん)がいた。Aさんは北海道出身で2,000m程度の山はよく登っているが3,000mは初めてだという。
山小屋入りの初日に一気に3,000mまで(小屋まで)登り、アルバイトがスタート。それから2〜3日は呼吸がしづらく疲れやすいながらも、平地とさほど変わらずに働いていた。
変化が見られたのは3,000mでの暮らしが始まってから4日目ほど、咳が止まらず寝られていないようだった。
高地に順応できず高山病(高地肺水腫)が悪化してしまったようで、アルバイトがスタートして1週間もしないうちにAさんは下山してしまった。
その山小屋では以前にもピンク色の泡を吹いた女性もいたらしく、自力では降りられずレスキューを呼んだこともあったらしい。
海外峰のように4,000、5,000mなくてもこのような症状が現れることを目の当たりにしたので、高山病には十分注意して登らないといけないと感じた。
高山病はなぜ起こる?高山病になる原因
先ほど高山病は、高所に急速に移動すると環境の変化に順応することができず症状が出ると軽く説明しました。
では高所とは一体どれくらいなのか、他にも高山病になる原因はあるのかについて詳しく説明していきます。
標高約2,500mから高山病のリスクがある
高山病になる最も大きな原因は標高を上げたことによります。
症状が出現する標高には多少の個人差があり、その時の体調によっても異なりますが一般的には2,500mくらいから発症する可能性があるとされています。
また、2500mを超える高度に1日(短時間)で登る場合は高山病の発症のリスクが高いとされています。
高山病は身体が酸素不足(酸欠状態)になると起きる症状ですが、その酸素は標高が高くなるにつれて薄くなっていきます。(標高が高くなると気圧が下り、それに比例して酸素も減る)
酸素は2,500mで平地の約4分の3、富士山山頂(3,776m)では約3分の2にまで薄くなります。
それに加えて、運動をすると体内の酸素を使う量は通常時に比べて多くなります。登山は運動量の多いスポーツですので余計に酸素を使います。
体内の酸素が減っていても目に見えないため気がつかないことがほとんどです。
そのような状態のまま活動を続けていると酸欠状態の時間が長くなってしまい、結果的に高山病を発症してしまうのです。
高山病になりやすい人とかかりやすい状態
一気に標高を上げることが高山病になる最も大きな原因ですが、その他にも高山病になりやすい人や特定の状態があります。
- 脱水状態や飲酒後
- 睡眠不足・体調不良
- 若年、一度高山病になったことのある人
脱水状態や飲酒後
酸欠状態で過度な運動をすることが高山病になる大きな原因にはなっていますが、加えて「脱水状態」も高山病になるリスクが高いとされています。
これは脱水により血液がドロドロになり、血液の役割である酸素の運搬がうまくいかず、全身(特に脳)へ酸素が行き渡らず高山病を引き起こしていると考えられます。
そういう点からも、脱水症状を引き起こしやすい飲酒も避けましょう。登山前の飲酒はもちろん、登山前日の大量の飲酒も高山病になるリスクが高まるため危険です。
睡眠不足・体調不良
睡眠不足や体調不良での酸素摂取機能が落ちている状態での高所への登山も高山病になるリスクが高まります。出来るだけ万全な状態で登山に臨めると良いでしょう。
また高山病は頭痛や倦怠感、吐き気など風邪や睡眠不足の症状に似ているため勘違いしやすく、高山病になっているのに気づかず症状を悪化させる恐れがありますので注意が必要です。
若年、一度高山病になったことのある人
高山病の発症頻度は比較的若年層に多く、一度なったことのある人は繰り返し高山病の症状が出やすいとされていますので、高山病になりやすい人と言えるでしょう。
これらが高山病になりやすい人や行動の特徴でしたが、これに加えて若年ほど、登るペースが早く高所への到達速度が速い人ほど高山病の重症度が高まる傾向にあります。
高山病の予防と対策
高山病の予防には、身体を酸素の少ない高地環境に慣れさせる「高度順応」をすることが重要です。
人体はある高度までは順応するように出来ています。しっかり高度順応策を取ることで血液中の酸素を運ぶ能力が高まって高山病の症状が出なかったり、症状が出ても軽く済んだりします。
また、高度順応以外にも高山病にならないために注意すべき点がありますので、合わせてご紹介していきます。
登山前にできる高山病の予防策
登山前にできる高山病の予防策① | 体調を整える
遠征や早朝の登山の場合は十分な睡眠時間を確保するのが難しいかと思いますが、睡眠不足も高山病に影響しますので、登山前日は出来るだけ十分な睡眠をとりましょう。体調を整えるためには日頃の睡眠も大切ですよ。
また、お腹を下したり風邪を引くと脱水症状になりやすく、高山病になるリスクが高まりますので十分注意しましょう。
刺激の強い食べ物や脂っこい食べ物、アルコールなどを摂り過ぎるとお腹を下しやすいので登山前日には避けた方が良いでしょう。
登山前にできる高山病の予防策② | 薬(ダイアモックス)を飲むのも有効
高山病に効く薬として知られている「ダイアモックス(アセタゾラミドナトリウム)」を飲むのも効果的です。
この薬は、脳の血管を拡げたり呼吸中枢を刺激する働きがあり、身体(脳)への酸素の取り込みを増やしてくれるものです。
市販はされておらず、医師の処方により手に入れることができます。
薬を頼らず他の対策を取って高山病を予防することが望ましいですが、以前に高山病に悩まされた経験がある方は予防として服用してもいいでしょう。
飲むタイミングや量は処方の際に説明があるかと思いますが、出発当日の朝、または1日前から1回半錠〜1錠(体重によって変動あり)を服用します。
登山中にできる高山病の予防策
登山中にできる高山病の予防策① | ゆっくりしたペースで登る
先にも説明したように、一気に標高を上げると身体が適応できずに高山病にかかってしまいます。
逆を言えば、ゆっくり登ることで酸素が少ない環境に順応して高山病の発症率を下げるということです。
ゆっくりは人それぞれですが、息が切れずおしゃべりしてても呼吸が乱れない程度のペースが目安になります。
「数歩歩いて立ち止まる」というような歩き方をしている人は、酸欠状態になっている可能性が高いので、息が切れていなくてもペースを落とすことをおすすめします。
登山中にできる高山病の予防策② | 呼吸を意識する
ゆっくり登るのにあわせてゆっくり深く呼吸するのも高山病の予防には有効です。
吸う時は鼻から深くゆっくり、吐くときは遠くのロウソクを吹く時のように口をすぼませてゆっくり息を吐くことを意識してみてください。
呼吸法で言うと腹式呼吸×口すぼめ呼吸を同時に行うということ。
この口すぼめ呼吸法は動作時の息切れや呼吸困難が主な症状のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者が取り入れる呼吸法で、気管支を拡げ血液中の酸素飽和度の増加を促してくれる効果があります。
詳しいやり方はこちらのサイトを参考にしてみてください。
口すぼめ呼吸は疲れてくると行動中に意識して行うのが難しくなってくるので、適宜休憩を挟んで2〜3分取り入れてみましょう。
先に紹介した「ゆっくりしたペースで登る」ことと「呼吸を意識する」ことが高山病予防の大きな軸になります。
登山中にできる高山病の予防策③ | こまめに水分補給をする
呼吸で取り込んだ酸素は血液が循環することにより全身に運ばれています。
しかし、脱水が起きると血流が悪くなり酸素が全身へ行き渡らず高山病を招いてしまう恐れがあります。
登山ではたくさんの汗をかき、呼吸・乾燥などで身体の水分が失われやすく脱水症状が起こりやすいので、こまめに水分補給をすることが大切です。
30分〜1時間おきの休憩に150〜250ml(コップ1杯程度)、暑い時はそれに加えて5分に1回一口ずつ飲むのが水分補給の目安になります。
こまめな水分補給は高山病予防の他にも熱中症や疲労の予防にも繋がります。
登山中にできる高山病の予防策④ | ウェアを調整して防寒対策をする
脱水症状と同じく、身体が冷えると血流が悪くなり高山病の発症リスクが高まります。
高山病を発症する恐れのある標高(約2,500m〜)では、夏場でも平地に比べて気温が低く風が吹くと寒いことが多いです。
高所で休憩をする場合は汗冷えなどで身体が冷えやすいため、防寒対策もしっかり行った上で休憩を取ってください。
また、行動時にレイヤリングを工夫したり汗処理機能の高いウェアを使って、汗冷えの原因である“汗”を上手にコントロールすることで、汗冷えを防ぎ高山病に繋がるリスクを抑えることが出来ます。
登山中にできる高山病の予防策⑤ | 糖質が多い食事を摂る
はっきりしたエビデンスは出ていませんが、糖質が多い食事を摂ると動脈血酸素飽和度が増し、急性高山病の兆候を減らすとも言われています。
登山前に炭水化物など糖質が多い食事を摂ることで登山中のエネルギー不足対策にはなりますが、糖質は体に蓄えられる量が少なく、運動量の多い登山ではすぐに枯渇してしまいます。
そのため、登山中にも意識して糖質の多い行動食を食べることが重要です。
そうすることで高山病のリスクを下げる以外にも、登山で起こりやすいシャリバテの予防にもなります。
水分補給や休憩と同時に行動食で糖質を補給しましょう。
登山中にできる高山病の予防策⑥ | 荷物を重くしすぎない
重い荷物を背負って歩いているだけでエネルギー消費量は増える、つまりは酸素消費量も増えてしまいます。
しかも、重い荷物を持ち上げるために身体が前屈み(猫背)になりやすく、猫背は胸郭や肺が圧迫されるため呼吸が浅くなり、酸素を取り込める量が減ってしまうので高山病につながりやすいと考えられます。
経験が浅いうちは難しいですが、慣れてきたら必要なものとそうで無いものを選別し、出来るだけ軽い装備で登山ができるようになると、高山病のリスクを減らすことができます。
登山中にできる高山病の予防策⑦ | 高所ですぐに寝ない
高所で昼寝をしたら高山病になった、なんて話をよく耳にします。
睡眠中は覚醒時に比べて呼吸が浅くなり体内に取り込める酸素の量が減るので、酸素飽和量が低下し高山病になっています。
山小屋や幕営地に到着すると、安心からか寝不足や疲れが出て夕飯まで時間があるような場合は横になりたくなる気持ちになりますが、そこをグッと我慢して散歩をしたりメンバーや他の登山者との会話を楽しみ、高所に身体を慣らしてから寝るようにしましょう。
登山中にできる高山病の予防策⑧ | アルコール、睡眠薬は控える
山の上で飲むお酒は格別です。
しかし、アルコールの分解に水を必要とし脱水症状が起こりやすかったり、睡眠時に鼻や喉の筋肉が緩み、空気の通り道が塞がって呼吸が止まりやすくなるなど、高山病との組み合わせは最悪です。
まだ高度に慣れていない場合や少しでも高山病の症状がある場合はアルコールは控えましょう。
また一部の睡眠薬には呼吸抑制や筋弛緩作用があり、睡眠中に呼吸が止まってしまう可能性があります。
もし高山病になってしまっていて、眠れないからと睡眠薬を飲むと逆効果になりますのでこちらも避けましょう。
+α | パルスオキシメーターを使ってみよう!
パルスオキシメーターとは指に挟んで使う小さな機械で、動脈血酸素飽和度(Spo2)と脈拍を測ることができます。
これを使うことで肺が正しく機能しているか、酸素を取り込めているかがわかるため高山病を判断する目安として役立ちます。
パルスオキシメーターで測ったSpo2が96%以上の場合は正常値、それを下回ると高山病の可能性があります(数値が低くても高山病の症状の出ない人もいたり、正常なのに症状が重い方もいるので、あくまで目安としての利用になります)
個人登山者で使っている人はあまり見かけませんが、山岳会やツアーなどではよく用いられています。
数千円〜1万円程度で市販されているので、気になる方は買って試してみてください。
最近では血中酸素濃度を測定できるスマートウォッチも販売されています。
スマートウォッチは、血中酸素濃度以外にもスマートフォンと同様の機能を持つ便利アイテムです。こちらもぜひ参考にしてみてください。
高山病になってしまった時の対処法
しっかり対策を取っていても高山病は発症してしまう可能性があります。また標高2,500m以上の登山をしていれば、約20%の人が軽度の高山病の症状を訴えるということで、自分でなくパーティーの1人が発症する可能性も考えられます。
そんな“もしも”の時に的確な対応が取れるように、高山病になった時の対処法を紹介していきます。
高山病の対処は重症度で変わりますが、いずれにせよ高山病の最善の治療は“下山すること”だと覚えておきましょう。
高山病の症状が軽い場合
高山病の症状が軽い場合は、ザックを下ろして休憩をとりましょう。休憩中は先ほど紹介した呼吸を意識しつつ、水分補給を忘れずに行うことが大切です。
また、高所での休憩は汗冷えなどで身体が冷えやすいため、気温が低かったり風が強い時は防寒対策もしっかり行った上で休憩を取ってください。
身体が冷えてしまうと血流が悪くなり酸素が行き渡らないため、高山病の改善は望めません。
症状が改善してきたら登山を再開しても構いません。
この際、休憩したからといってペースを上げてしまうと再び高山病の症状が出てしまう恐れがあります。呼吸が乱れないようにゆっくり登ることを意識しましょう。
再び登り始めた後はゆっくりなペースと意識的にこまめに休憩を取ることで、高地環境に身体を慣らしていくことができ(高度順応)、高山病の症状が軽度もしくは症状が出ずに済むことが多いです。
高山病の症状が重い場合
高山病の症状が重い場合や休憩していても一向に症状が改善しない場合は標高を下げましょう。
高山病の最良の治療は“下山すること”です。
高山病は標高を下げると症状が緩和することが大半だとされています。
標高を下げて休憩しても症状が改善されない場合は、無理はせず下山する決断をしましょう。その際、行動に支障がないようなら自力で下山しますが、無理な場合は救助を要請しましょう。
下山しても咳などの症状が続くようであれば医療機関を受診しましょう。
おわりに
以上、かかると辛い高山病にならないための対策まとめでした。
高山病になったことがある人は知っている通り、症状が軽くても辛いものがあります。
今回ご紹介した対策を取ることで高山病が出なかったり軽い症状で済んだりします。高山病にならないように適切な対策を取って、標高が高い山にチャレンジしてみてください。
それでは、おしまい!
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